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「ノロウィルス蔓延防止対策」について

2007年10月01日

 今年の夏は記録的に暑い夏でした。北海道の秋は短く駆け足で冬がやってきます。冬はいろいろな病気が流行る季節で、皆様の健康管理の上からも注意が必要ですね。
代表的な冬季の流行性疾患はインフルエンザとウィルス性胃腸炎です。ウィルス性胃腸炎の原因となる代表的なウィルスがロタウィルスとノロウィルスです。いわば東西の横綱とでも言いましょうか。

ロタウィルスは主に乳幼児に発症する“冬季乳児白色下痢症”と呼ばれる重症の胃腸炎を起こすウィルスとして知られています。その一方でノロウィルスは比較的軽症ですが大人も子供も罹患します。ウィルスで汚染した食べ物から食中毒の形で発症したり、保育所や家庭内あるいは病院や施設内で人から人への感染の連鎖が起きることもよくあります。昨年これが大流行いたしました。マスコミでも報道がされたように昨年の11月後半から多くの病院で感染者が発生し、天使病院でも一時入院制限を行うなどの対策を余儀なくされました。例年にない流行だったのです。今回はこのノロウィルスについてお話ししたいと思います。
 

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 ノロウィルスの流行は毎年冬場になるとおこります。しかし麻疹やインフルエンザのように昔から知られていたウィルスではありません。社会的な問題になってきたのはここ20年くらいでしょうか。

 ノロウィルスは、1968年に米国のオハイオ州ノーウォークで発生した胃腸炎の集団感染の原因病原微生物として4年後の1972年に初めて正体が判明し、ノーウォークウィルスと名付けられました。その後ノーウォークウィルス以外にも似たようなウィルスが次々発見されたので、これらをまとめてノロウィルスと呼ぶことにしたのです。従ってノロウィルスはある特徴を持ったウィルスの総称で、その遺伝子配列の違いからGenogroup I 〜 Vに分類されます。このうちGenogroup I(ノーウォークウィルスはこれに属する)とGenogroup IIがヒトに病原性を有します。

 ノロウィルスには終生免疫が成立しないと言われていますが、それは遺伝子配列を異にする様々なタイプがあるためなのです。場合によっては1シーズンに2度感染することもあります。 ノロウィルスは直径が25−35nmの正二十面体でカプシドと呼ばれるタンパク質に覆われていますが、多くのウィルスがその外側にまとうエンベロープという膜を持たないのが特徴です。

 ノロウィルスがアルコールや有機溶媒に強いのはこのエンベロープを持たないためなのです。昨年流行したノロウィルスは遺伝子分析の結果Genogroup IIのtype 4(GII/4)ウィルスの変異型と言うことがわかりました。要するに今までにない全く新しいタイプのノロウィルスだったのです。

 ノロウィルスは我が国でおこる感染性胃腸炎のほぼ30%の原因となり、食中毒として発症する患者数は2005年には全体の32.3%を占めトップとなっています。

 ノロウィルスに罹ると嘔気・嘔吐・下痢・腹痛・発熱などの胃腸炎症状をおこします。感染経路は大きく分けて2通りあります。

 第一に糞便に排泄されたウィルスが下水を経て、河川から近海へ流れ出て、牡蠣・ジジミなどの二枚貝に取り込まれ濃縮した後、それらを生で食べることにより再び人に感染する食中毒型です。

 もう一つは家庭や施設などで感染者の糞便から排泄されたウィルス(糞便1g中に100万−10億個)が手を介して経口的に別の人に感染するものです。すなわち2次感染型です。また、罹患者が吐いたものが放置され乾燥すると、その中のウィルス(吐物1g中に100万個)がエアロゾルとして飛散しあたかも空気感染のような様式で感染を拡大することもあります。ノロウィルスの感染はウィルス100個で成立すると言われていますから、吐瀉物1gで1万人を感染させることができる計算になります。

さて、食中毒型で発症する場合、牡蠣などの生食が以前から主な原因と考えられていましたが、それは遠い過去のことで、現在は牡蠣の生食による罹患は5%にすぎないと言われています。
それ以外に原因となる食材(加熱せずに供食されるもの)たとえば、パン・饅頭・サラダ・ドレッシングなど、ありとあらゆるもので食中毒が報告されているのです。そして、さらに大きな問題は食品を扱う人が不顕性感染(胃腸炎症状が無いのに実はノロウィルスに罹患していてウィルスを排泄している状態)であった場合は、本人の知らぬ間にウィルスが付着することがあり得ますから、蔓延を防ぐことは必ずしも容易ではありません。

今年も流行が予想される冬季を迎えるにあたり、皆様のご家庭でも健康に十分注意することをお願いします。
ノロウィルスには流水・石鹸による十分な手洗い、十分な食品の加熱が重要です。不顕性感染(無症状)でノロウイルスを便から排出し続けている場合があります。家庭でも食事を扱う方は流水・石鹸による手洗いを徹底すべきであると思われます。具体的には、以下のとおりです。

  • トイレの後、料理の前、食事の前には、必ず手をよく洗いましょう。
  • 貝類は、よく加熱してから食べましょう。
  • 生野菜は、よく加熱してから食べましょう。
  • ノロウイルス感染症を疑わせるような症状がある人は、食事の準備をしたり食物に触れたりすることは、止めましょう。
  • ノロウイルスに汚染されたモノの表面の消毒には、ブリーチやハイターなど塩素系の漂白剤が有効です。

厚生労働省ウェブページに「ノロウイルスに関するQ&A」が掲載されていて、参考になります。下記のURIを参照してください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/dl/040204-1.pdf

 

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