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第2回 『インスリン抵抗性(感受性)と脂肪細胞』

2007年09月01日

 血糖値が上昇する原因は大きく(1)膵臓β-細胞のインスリン分泌能の低下と(2)インスリン抵抗性(インスリン感受性の低下)によることはよく知られていることだと思います。
 2型糖尿病は、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性と複数の遺伝素因を基盤にして、運動不足・肥満・過食・ストレスなどの環境因子が加わって発症してきます。
 今回はインスリン感受性が悪くなる原因の一つである肥満特に腹部内臓脂肪の観点から考えてみたいと思います。

◆腹部内臓脂肪の蓄積

 腹部内臓脂肪の蓄積が糖尿病・高脂血症・高血圧という動脈硬化性疾患を発症させることがわかってきました。腹部内臓脂肪は主にお腹の中で腸の周りに存在 する腸間膜脂肪のことです。最近有名になったメタボリックシンドロームですが、腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上(最近数値の見直しが必要と言わ れていますが)人は腹部内臓脂肪が多く動脈硬化をすすめる生活習慣病になりやすいので注意してくださいとよく言われています。腹部内臓脂肪の蓄積の発症に 関わるメカニズムが徐々にわかってきたので少し紹介いたします。

◆脂肪細胞の働き

 脂肪細胞がエネルギーを貯蔵することはよく御存知だと思いますが、もう一つ大切な働きがあります。脂肪細胞はさまざまな生理活性物質を分泌していて人体 における最大の内分泌臓器とも言われています。そしてさまざまの生理活性物質を総称してアディポサイトカインと呼んでいます。

◆腹部内臓脂肪

 内臓脂肪は中性脂肪(トリグリセリド)を貯めやすくまたそれを燃やしやすい脂肪組織です。内臓脂肪が蓄積した体からは空腹時には大量のトリグリセリドが 分解され遊離脂肪酸とグリセロールになって、門脈を通って直接肝臓に入っていきます。(インスリンは脂肪の合成促進・分解抑制の働きがあります。)それに 対して皮下脂肪は分解による遊離脂肪酸とグリセロールの一部が肝臓に入っていきます。腹部内臓脂肪から遊離脂肪酸とグリセロールの肝臓への過剰な流入が高 血糖・高脂血症を引き起こし、インスリンの代謝へ影響が出て、高インスリン血症(膵臓がインスリン分泌予備能があればですが)となってインスリン抵抗性を 引き起こしてきます。また、腹部内臓脂肪と皮下脂肪で発現する遺伝子にも違いがあります。脂肪細胞は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく内分泌臓器ですが、 特に腹部内臓脂肪は生理活性が高く、インスリン抵抗性を起こす物質をたくさん産生している場所なのです。

◆脂肪細胞の成熟過程

 脂肪細胞は未熟なものから段々と成熟していきますが、分化した成熟脂肪細胞は生体のエネルギーバランスに応じてトリグリセライドの合成・分解を行い、活 発に細胞内トリグリセリドの量を変化させます。小型の成熟脂肪細胞が大型化すると悪玉のアディポサイトカインを分泌して最終的にアポトーシス(細胞死)が 起こり生体より排除されていきます。
 前駆脂肪細胞から小型脂肪細胞への分化を促進する主要な因子が、核内受容体型転写因子PPARγであります。PPARγが活性化すると前駆脂肪細胞から 小型脂肪細胞への分化が促進して肥大化した大型脂肪細胞のアポトーシスが起こり生体にとって有利になる様になっています。現在この様な作用をもつ薬が実際 に使われています。

◆善玉・悪玉アディポサイトカイン

 小型脂肪細胞が増加して大型脂肪細胞が減少すると、脂肪細胞から分泌される善玉のアディポサイトカインが増加して悪玉のアディポサイトカインが減少することになりインスリン感受性が改善されることになります。
 脂肪細胞のうち、小型脂肪細胞からは善玉のアディポサイトカインであるアディポネクチンやレプチンが多く分泌され、全身のインスリン感受性が改善するよ うに作用していきます。脂質が蓄積して肥大化した大型脂肪細胞からは悪玉のアディポサイトカインであるTNF-α(インスリン作用を阻害)、遊離脂肪酸、 アンジオテンシノーゲン(高血圧に関連する物質)、PAI-1(血栓形成に関連する物質)などの分泌が増加して善玉アディポサイトカインであるレプチン・ アディポネクチンなどの分泌が低下するためインスリン感受性を悪化する様に作用します。

◆アディポネクチン

 アディポネクチンは善玉脂肪細胞から大量に分泌されるアディポサイトカインです。抗糖尿病・抗動脈硬化・抗炎症作用などを有しています。生体にとっては とても頼りになる存在です。アディポネクチンはインスリン感受性を改善してくれます。以前から肥満では減少することがわかっています。
 アディポネクチンは、それそのものがインスリン感受性増強ホルモンですが、インスリン抵抗性を引き起こす悪玉アディポサイトカインであるTNF-αの産 生と機能を抑制します。アディポネクチンとTNF-αは、お互いの作用を抑制しあうだけでなく、その産生場所である脂肪組織において転写レベルでの調節に よりお互いの産生を抑制しあうことがわかってきました。アディポネクチンは多いほど良いことになります。アディポネクチンを増やす薬やアディポネクチンを 簡単に補充できたらすばらしいことと思いますね。

◆まとめ

 善玉であるアディポネクチンやレプチンが多く分泌され、全身のインスリン感受性が改善するような状態は糖尿病の患者さんたちにとっても非常に大切です。
 また、糖尿病でない方にとっても糖尿病を予防したり動脈硬化をすすめないためにも大切だと思っています。
 今回は脂肪細胞について考えてみましたが何かの参考になれば幸いです。

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