札幌市東区の総合病院 天使病院
てんちゃんブログ「第1回 『糖尿病はどんな病気なのでしょうか』」

てんちゃんブログ

HOME > てんちゃんブログ > 第1回 『糖尿病はどんな病気なのでしょうか』

第1回 『糖尿病はどんな病気なのでしょうか』

2007年06月01日

 平成18年10月に新設された診療科「糖尿病・甲状腺科」を担当しています。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
 
 糖尿病はだれもが知っている病気ですが、軽く見られがちあるいは非常に甘くみられる病気でもあります。
 それは糖尿病はある程度進行するまで自覚・他覚症状はほとんどない病気です。そのためなかなか辛くなったり困ったりしません。その結果、糖尿病の治療中 断・未受診が多く、合併症が進行して症状(体重減少・倦怠感・ひどい口渇・視力障害などの)が出現して体調が悪くなってからいよいよ病院を受診となること が多いという特徴を持った病気と思います。
 糖尿病は診断された時が糖尿病の発症ではありません。診断されたときには糖尿病になってから10年経過しているかもしれません。例えば視力低下がひどく 眼科を受診して糖尿病からきているからと言われ内科に紹介されることがありますが、失明するちょっと手前というケースも経験したことがありますが、日常生 活ではかなりの制約があり大変だと痛感しました。
 糖尿病のコントロールが長期にわたって不良だと目が悪くなったり・腎臓が悪くなったり・手足がしびれたりすることはよく御存知だと思います。なぜこのよ うなことが起こるかといいますと、血糖値が高くなりそれが持続すると血管が障害されるからです。すなわち糖尿病は血糖値が高い病気というよりも血管病とい うイメージを持っていただいた方がよい病気ということです。そして血管病は網膜症・腎症・神経障害をきたす糖尿病特有の細小血管障害と糖尿病に特有ではあ りませんが動脈硬化を基盤にした脳梗塞・心筋梗塞・閉塞性動脈硬化症などに分けて考えられています。
 
 1998年以降は糖尿病性腎症が新規透析導入の原因疾患の第1位で、2005年には14,350人の糖尿病性腎症の方が新たに透析導入されました。新規 透析導入患者さんの約42%を占めています。現在様々の病気が原因で透析している患者さんの合計は約258,000人で、日本国民の約500人に1人が透 析を受けている計算です。また、後天性失明の原因の第1位は糖尿病性網膜症で、年間3,500人以上の人が網膜症で失明しています。さらに糖尿病が原因で 下肢切断を余儀なくされた方の数は年間3,000人以上にのぼっています。
 そして最近は糖尿病があって脳梗塞・心筋梗塞で亡くなられたりすることが多くなり、糖尿病は健康寿命を15年短くする病気だと海外で報告されています。 心血管障害のイベント(脳梗塞・心筋梗塞)の重要性がますます増すようになってきました。そのため心血管障害のイベントを抑制するにはどうしたらよいのか ということに関して糖尿病の治療方法などをはじめ大規模臨床介入試験が諸外国で盛んに行われ、エビデンスがたくさん発表されてきています。
 日本においても諸外国に比べて遅れましたが、1996年に開始されたJapan Diabetes Cmplications Study(JDCS)があります。これは日本における日本人2型糖尿病患者さんを対象にした大規模臨床介入試験で、非欧米人の糖尿病患者を対象にした始 めての大規模臨床介入研究です。現在JDCSは継続中ですが、欧米人とは異なる日本人の糖尿病患者の方々の様々な特徴が見出されてきています。日本人の糖 尿病患者の方々をみさせていただくためには、日本人の患者の方々のエビデンスが必要であることが示唆されています。
 2型糖尿病患者数が増加の一途をたどる状況で日本では国をあげた糖尿病の予防・治療への取り組みが行われています。2005年度よりスタートした戦略的 な大規模臨床試験Japan Diabetes Outcome Intervention Trial(J−DOIT)があります。J−DOIT1・J−DOIT2・J−DOIT3からなっています。
 第1(J−DOIT1)に予備軍から糖尿病への移行を抑制して糖尿病の発症率を50%抑制すること・第2(J−DOIT2)に糖尿病の治療中断率を 50%減らすこと・第3(J−DOIT3)に治療目標を確実に達成し糖尿病合併症の発症を30%抑制することです。今からどのような結果が出るのか楽しみ にしております。
 最近は高血圧の治療についても血圧を下げるだけでなく、臓器保護などのことを考慮にいれて降圧剤を選択する時代になっていますし、糖尿病の治療について も心血管イベントの発症・進展・再発抑制のエビデンスを考慮した治療が行われています。糖尿病性腎症の治療についても発症・進展阻止から寛解・退縮へと治 療の目標が変化してきています。
 糖尿病の腎症・網膜症・神経障害の発症の有無・進展状況などの確認だけでなく、動脈硬化を基盤とした心血管イベントの発症がないかどうかをチェックをしながら糖尿病をみていかなければならない時代になっています。
 そういう意味では糖尿病という病気では「血糖値をみるということは氷山の一角にすぎない」ということが皆様にわかっていただけると大変ありがたいと思っております。そして糖尿病の検査・治療は時代とともに進化・発展していくんだと思っています。皆様方の何かの参考になれば幸いと思っております。

メニュー アクセス