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「小児の反復性中耳炎」について

2005年11月01日

近年、小児の急性中耳炎は世界的規模で治りづらくなっており、さらに何度も急性中耳炎を繰り返す場合「反復性中耳炎」という一つの疾患概念として考えられられるようになってきました。今回はこれについて解説します。


中耳炎シリーズは今回で一段落とします。これまでのシリーズ(1)、シリーズ(2)と合わせて、参考にしてください。

 

Q)反復性中耳炎〈はんぷくせいちゅうじえん〉とはどんな病気ですか。

A)乳幼児期に急性中耳炎に何度もなる場合、目安として半年間に4回以上、1年間に5回以上、2才までに5回以上繰り返す場合を「反復性中耳炎」といいます。反復性中耳炎には純粋に急性化膿性中耳炎のみを繰り返す場合と、滲出性中耳炎を合併している場合があり、多くは後者です。

 

Q)どのような症状が出るのですか。

A) 発熱、耳漏れ、耳の痛み、不機嫌を何度も何度も繰り返します。また滲出性中耳炎合併型では難聴も続きます。お母さんたちは「色々と治療しているわりにはどうしてこんなに良くならないのだろう?いつまで通院しなければいけないのだろう?」という印象をお持ちになると思います。

 

Q)反復性中耳炎になりやすくなるのは、どういう場合ですか。

A)反復性中耳炎の危険因子として以下のことが指摘されています。


1.生後12ヶ月以下で急性中耳炎になった場合
当科の調査でも反復性中耳炎患児の約70%は生後12ヶ月以内に初めて急性中耳炎になっていました。


2.低年齢で集団保育
当科の調査でも反復性中耳炎患児の約80%は保育園に通園しており、このうちの半分は通園開始1ヶ月以内で初めて急性中耳炎になっていました。その理由として抵抗力が未熟な低年齢の子供同士が細菌やウイルスをうつしあってしまうためと考えられており、さらにきちんと1日3回薬を飲めないことが多くなることも治りづらくなる要因とも言われています。


3.抗生物質に対して抵抗力を持った細菌(薬剤耐性菌)が中耳炎の原因の場合

 

Q)どのような治療をするのですか。

A)初期治療は急性中耳炎と同じですが、薬剤耐性菌が原因の場合、通常の急性中耳炎の治療のみでは良くならない場合が多いのが現状です。そこで以下のような治療が一般的におこなわれています。


1.内服の抗生物質の倍量投与
通常量の1.5〜2倍のペニシリン系抗生物質を内服して、抗生物質の血中濃度を高めて薬剤耐性菌をたたく方法で、外来治療でできます。ただし、下痢などの消化器症状が強く生じて、継続困難になることも多い方法です。


2.頻回の鼓膜切開
外来治療で行えます。もちろん、局所麻酔薬を鼓膜にしみ込ませ、痛みをなくして行いますが、頻回になると本人にとってもストレスは強くなります。


3.頻回の耳の中の洗浄、消毒
通常、鼓膜の穴から膿が排出されるような状態になった場合におこないます。洗浄、消毒に痛みは伴いません。ただし、鼓膜の穴が閉鎖すると効果はなくなります。


4.抗生物質の注射
炎症が強く、内服の抗生物質や頻回の耳の中の洗浄、消毒でも耳漏が続くような場合に入院しておこないます。注射の場合、内服に比べ血中濃度がはるかに高くなり、薬剤耐性菌にもよく効く薬があります。


5. 鼓膜換気チューブの留置
1〜4などの治療をおこなっても改善しない場合で特に滲出性中耳炎が合併している場合におこないます。当科では乳幼児の場合、2泊3日の入院で、吸入麻酔で眠った状態でおこないます。手術時間は正味10分程度です。
この治療で急性中耳炎の反復は大幅に減少します。発熱の頻度も減少します。滲出性中耳炎合併型でも滲出性中耳炎は消失し、聴力も改善します。外来で鼓膜切開を受ける必要がなくなり、結果的に抗生物質の投与の機会を減少させ、通院回数も減らすことができます。チューブは平均して約6ヶ月から1年で自然に耳の中から出てきます。鼓膜の穴はほとんどの場合、自然に閉じます。


6.免疫グロブリンの投与
全身の抵抗力が未熟なことが原因と考えた治療方法です。各種細菌に対する抗体を補充することで、中耳炎の反復を減らします。ただし、免疫グロブリンは血液製剤で、効果発現には複数回の投与が必要であり、さらに保険治療の適応上の問題もあるため、当科では以前は一部おこなっていましたが、現在はあまりおこなっていません。

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